「何か」についての感想メモ

個人的な読書感想メモ。なにかの足しに。

No.2

タイトル「だるま」
メディア:電子書籍『瞬殺怪談』(竹書房)2016.8.1
作品の初出:『「超」怖い話T』
著者:松村進吉


○感想
これも主語が全編にわたって省略されており、読むことがすなわち疑似体験となるような語りである。
夜、帰り道で「何か」に遭遇する話。
この話では何が不思議かというと、「佇む女」の存在である。陰影が濃く、つまり街灯のもとで逆光のようにシルエットが見えるだけであり、顔立ちや表情については分からないながらも「女の姿」として形を認識できる。服装も分からないが、とにかくその「何か」が人の形を、それも女の形をしていることは分かるのだ。しかしそう認識した途端、だるま落としのような動きから、それが生きてるものではないと分かる。ひとまず人の形をしていて、かつそれが生きていないと明確に分かるものを「幽霊」と読んでおこう。動物の幽霊やウイルスの幽霊などもいるかもしれないが、とにかく人型に限定して「幽霊」と呼ぶことにする。こうした幽霊が存在するというのは私たちの一般常識(科学的知識)から逸脱しており、これを「存在の不思議」とする。人型で、かつ生きているように見えるが、しかし人でないように思えるものは「化生」と呼んでみることにしよう。
この話では、だるま落としのように「スッ」と女の身体の一部分が暗闇に消えている。恐怖に対する人の反応は様々である。硬直、逃亡、抵抗……この話の体験者は「硬直」だが、動けるなら動きたい所だろう。暗闇の中で、女の一部分がこっちに向かっているのかもしれないのだから。